こんにちは。
ヴェルディのオペラ『椿姫』から、第1幕で歌われるヴィオレッタのアリア(歌)をご紹介します。
今宵も華やかなサロンで過ごし、みんなが帰って一人になった場面、
今まで感じたことのない何かが自分の中で芽生えている、アルフレードへの恋する気持ちを認めつつも、それを打ち消すように「私は自由に、快楽と共に生きるのよ!」とヴィオレッタの歌うアリアです。
ソプラノ歌手の誰もが知る代表的な一曲です。
では、歌詩を詳しくみていきます♪
★オペラ『椿姫』についてまだご存知ない方は、ぜひ記事も合わせてご覧いただければと思います^^
『椿姫』登場人物・あらすじ / 『椿姫』解説1 / 解説2
【椿姫】花から花へ
不思議だわ、あの人の言葉が刻み込まれてしまった! 私にはまじめな恋なんて不運なことじゃない? どうするつもりなの、乱された私の心よ? 今まで誰にも私の心を燃やさせはしなかったのに。 知らなかったのよ、愛し、愛される喜びを! 私に拒むことが出来るかしら、無味で愚かな人生だったのに?
アルフレードからの真剣な愛を知り、最初は“また自分に言い寄ってくる男が来たわ~”なんて軽く思っていたけど、体を気遣ってくれたりして、今までの男とは違う。心が動かされ、そんな自分に戸惑っているのだと思います。
ここまではレチタティーヴォ(音楽に合わせて歌うのではなく、語っているパート)でした。次からはアリア(歌)になります。
あぁ、彼なのだわ、孤独な心が揺れ動いている時に 私の心が神秘的な色で思い描いていた人! 彼は謙虚で気遣ってくれて、病んだ者のところにやってきて、 愛の中に目覚めさせ、新たな炎を燃やさせたのよ。 愛のときめきは、宇宙の鼓動、 神秘的で高尚に、喜びと苦しみを心に伝えている。 無垢な娘だった私に、不安な望みを描いてくれたの、 未来の優しいご主人様は。 空に輝く美しい眼差しを見たとき、神聖な過ちでいっぱいになった。 そして私は感じたの、 愛のときめきは宇宙の鼓動、 神秘的で高尚に、喜びと苦しみを心に伝えているのだと。
“愛のときめきは宇宙の鼓動~”という内容は、この前の場面でのアルフレードがヴィオレッタに語った歌った詩を受けて、繰り返しています。彼は自分の夢に描いていた人、そして、“愛のときめきは宇宙にまで広がっている、壮大な心が広がっている詩ですね!
しかし、我に返る。よって、音楽も変わります。
馬鹿げている!馬鹿げているわよ...これは儚い想いよ! 哀れな女ね、独りで、パリという人の砂漠に見捨てられたのに、 何の望みが持てるというの? 何をしたらいい? 楽しむのよ、喜びの渦の中に消えていくの。
恋人との素晴らしい未来を一瞬想像してみたものの、そんなのは叶わぬ望み。所詮は身分の低く、卑しい身だと分かっている。今は人気者で、ちやほやされているけれど、パトロンの気が変わったら一瞬で生活は変わってしまう。
派手な生活が羨ましく見られるけれど、心から自分を思ってくれる人なんて居ない孤独な人生、高級娼婦に上り詰めるまで本当に大変、辛い事も理不尽も沢山ある、パトロンの気持ちが変わったらすぐに転落する安心なんて出来ない。そんな自分の人生は虚しい。
こんな思いをヴィオレッタは抱いて、自問自答しているのだと思います。さぁ、そして、どうする?楽しむしかないのです!そして華やかに歌います。
いつも自由に快楽から快楽に遊び、 私は快楽の道を進むのが人生の望みよ。 一日が始まり、一日が終わる、 その間は常に新しい快楽を探して、 私の気持ちは飛んでいかなくてはいけないのよ!
純粋な愛、愛する人との幸せな生活、そんな儚い望みは自ら打ち消して、私は快楽の中で生きるしかないのよ!それが私の人生!それが私の望みなのよ!と自分に言い聞かせている様な詩ですね。
【眉毛が立派なヴィラゾン様のアルフレード、繊細な表現と力強いテノールの声、大好きです!生で聴いたらさぞ素晴らしいでしょうね☆彡】
※ちなみに、余談です。
この「花から花へ」と訳された邦題についてですが、オペラの中のアリア(歌)は、「この曲はこういう題名です」とタイトルがついてはなく、
歌い始めの言葉をタイトルにして「あぁ、あの曲ね」と特定できるように認識しています。劇中ノンストップで続いていて、ではこの曲どうぞ、はい!みたいに分けられてはいないのです。
では例えば、
♪O mio babbino caro~(オーミオバッビーノ)私のお父さん
という歌詩から始まるから、「O mio babbino」私のお父さん という曲です、という共通認識をしている事になります。では、この椿姫のアリアは・・・
「ああ、そは彼の人か~花から花へ~」
という訳の題が昔からついていて「???」となります。
「そは彼(か)の人か」って何?!ですよね。上記の解説を読んで頂いたので分かるとおもいます、「私の夢見ていた人は彼なのね」という意味ですね。
そして「花から花へ」というの、歌詩の中には訳してもないタイトルです。快楽から快楽へ生きていく、という内容を「花から花へ」と意訳しているのでしょうね。
日本で一般的に「花から花へ」という題でCDなどのタイトルにもなっていて、“この曲のことです”と示されているので、今回のブログのタイトルにも、それを使いました。
そんな事を豆知識として書いてみました。
「そは彼の人か」というタイトルだと、あまり聞く気にならないですよね。レチタティーヴォの最初の、「不思議だわ、彼の言葉が刻み込まれて」とかで良かったのではないかと思うのですが、
それだとこのドラマティックなアリアのタイトルとしては微妙だな!とか初めて訳した人達で決めたのかなとか。。
以上は雑談です。
高級娼婦は、元々は貧しい生まれの女の子が、お針子(内職をして生計を立てている)などの仕事をして、何かのタイミングがあってパトロンに出会って、のし上がっていくという世界、必ず成功するというものではない厳しい生き方をするしかなかったわけです。
親に捨てられ、身寄りもない中で生き抜いて得た華やかな毎日の生活。派手な振る舞いに見えて、心の奥では愛する人と共に普通の幸せを夢見る女の子が隠れているのだと思います。
高級娼婦やお針子など、そういった立場の人々にフォーカスしたオペラは他にもあります。
おいおい紹介していけたらと思います♪
少し長いアリアでしたが、お読み頂きありがとうございました。
また次回!